前回のあらすじ。

竜神の心臓

アストルティアの世界を創り給いし創生の霊核は、
永劫不滅」「永遠」を象徴する、
ドラゴンの生命力の源・竜の心臓でした。



【考察】31.生まれ変わる魂(後編)
http://astoltia.doorblog.jp/archives/42380117.html

時を遡ること6年前の2013年。

中の人は初めてアストルティアに降り立った時から、
とあるキーワードが引っかかっていました。


エテーネ

永遠」という名の民、エテーネ(eterne)の存在です。



エテーネの民として生を受けた主人公。

灼熱の獄炎でその身を焼き尽くされようが、
死に至る毒針で何度も急所をぶっ刺されようが、
その度に不死鳥のごとく蘇ってくる、
フェニックス一輝兄さんばりの生命力を発揮しています。


さて、これと似たような話を、
前編でお届けしたばかりでした。

ドラゴンは古い肉体を脱ぎ捨て、新しい肉体へと生まれ変わる。

まるでエテーネの事を言っているかのようですね。



エテーネ
エテーネ


主人公の魂が果たすべき使命、
生まれ変わりの意味、とは何ぞや?

アストルティア考古学では、その答えをずっと探し続けてきました。

そしてとうとう答えが見つかったのです。


後編となる今回は、中の人が発見した主人公が生まれ変わった意味を、
アストルティア考古学の集大成としてお届けしていきます。





まずは、エテーネの使命を果たす旅の、
バージョンごとの道程をおさらいしておきましょう。


Ver.2Ver.3Ver.4

この『ドラクエ10』というゲーム、

各バージョンごとに小テーマが設定されており、

それらを全て繋げると1つのビッグテーマになる、
章仕立ての物語構造になっていると見られます。


【Ver.2】 プラトンのイデア論


ドラクエ10

バージョン2 『眠れる勇者と導きの盟友』は、
プラトンのイデア論をベースとした、
真実の世界と偽りの世界の相対性を扱っています。

特筆すべきはVer.2.3、オフラインの兄弟姉妹のバックストーリーが、
オンラインの主人公のメインストーリーと繋がり、
バルザックが得ようとした錬金術の力(進化の秘法)が
大魔王の創生の魔力と深い相関がある事を強く示唆する流れになっており、
両者が結びつく伏線はVer.2.0から既に張られていたのでした。



 Ver.2.0の伏線について
 初代ディレクター藤澤仁さんの最後のお仕事。
 オフラインとオンラインのストーリーを対比させる仕掛けを残していった。


イデア(idea)とは、真実とかりそめを分かつ理想世界の事を指し、
この世にある全ての物(形相)は、
理想世界にある本質を転写して作られたとして、
錬金術の基本的な考え方に取り入れられています。

プラトンは、師・ソクラテスを刑死させたこの世界を「偽物」だと言い切り、
ソクラテスが追求した理想の知こそを真実としました。

これに着想を得たと思われるのが、大魔王マデサゴーラが
創生の魔力によって創造した偽りの世界という訳です。


イデア論では、人間の魂が還る場所を永遠不変とし、
魂は再び現世の肉体へと転写して
輪廻転生をぐるぐる繰り返す、と定義されます。

『鋼の錬金術師』で言うと、鎧の姿をしたアルフォンス君の肉体がかりそめで、
その魂は真理の扉の向こう側にある、となるでしょうか。


奈落の門
 天馬ファルシオン
 門の名は 奈落の門……。
 その向こうには 創生の霊核というチカラが
 眠ると いわれています。


イデアの理想世界は、キリスト教では「楽園」と呼ばれます。
(ただし、現世の生を罰とするキリスト教では輪廻転生はあり得ないとされます。)

Ver.2は言わば、楽園へと回帰する人々の物語です。


兄弟姉妹が生み出した魔法生物・ハナちゃんや、
大魔王が創りあげた偽りのレンダーシアは、
創生の霊核による本物の創造行為を範型とした偽物であり、

範型があるという事は、そこには必ず、
原型となる永劫不滅の魂が存在するはずでした。


エテーネ(eterne)のキーワードがずっと引っかかっていた中の人にとって、
その正体が竜の心臓であった事は、
とてつもなく大きな意味を持っていたのです。



【Ver.3】 新プラトン主義とスピノザの汎神論


ドラクエ10

バージョン3 『いにしえの竜の伝承』は、
新プラトン主義とスピノザの汎神論をベースに、
一神教と多神教の対立と、人間の自由意志を描いたお話になっています。

新プラトン主義(ネオ・プラトニズム)とは、
プラトンに影響を受けた後世の哲人・プロティノスが、
真実と偽りの存在を説いたプラトンの二元論に対し、
この世界には真実のみが存在するという一元論を説いたものです。

この世にある全ての物は、イデアの理想世界にある
唯一無二の本質から漏れ出た流出物であり、
プロティノスはその一者を旧学派の呼び方に従って「」と呼び、
真実を認識せし少数の人間だけが神へと還るとしました。



 オルストフとエステラの問答
 藤澤さんの後任を務めた成田篤史さんのテキスト。
 このわずかな問答の中でVer.3の全てを説明している。


新プラトン主義の神の在り方は、ユダヤ教やキリスト教など、
一神教の教義に取り入れられます。

人間はただ一者に従っていれば良いという考え方を、
竜族の神であるナドラガを唯一神とする総主教オルストフと、
神の器として生まれた神官エステラに当てはめ、
神の必然に従うべきか、己の必然に従うべきかを問うている訳です。


アンテロ

一元論の宗教であるナドラガ教団には、
竜族こそ選ばれし民である、という優生思想が存在しています。

アストルティアは多神教であり、
6つの種族の各々の神を、同じ教会内で信仰していますが、
竜族はこれを「下等種族」と見下し、支配しようとします。


プラトンは「馬鹿に教育を与えるな」と公言し、
エリートによる国家統治を推奨した優生思想の人物で、
全体主義的な調和を理想としました。

竜将アンテロの台詞は、まんまプラトンの優生思想に、
ひいては新プラトン主義の一元論に当てはまります。


20170706-2249_387694738

一方で、多神教的な考え方を表しているのが、
6柱の種族神の加護を結集させた調和のオーブです。

プラトンは数学こそ理想世界から転写された永遠不変の真理と捉えており、
中でも約数の和が等しくなる完全数の「6」を、
ピタゴラスが言う「調和(ハルモニア)」の状態にあるとして、
六角形が導かれる幾何学模様に関心を持ちました。

ただし、プラトンの言う調和とは、
幾何を理解する頭を持った少数の人間に従うもので、
幾何学を知らぬ者は門弟となる事すら許しませんでした。

プラトンの優生思想は弟子・アリストテレスからも批判されており、
アリストテレス主義においては物の本質を
イデアの理想世界ではなく個物(己の中)に求め、
個々の調和を理想としています。


調和とは、一は全の為、全は一の為に最善を尽くす事。

調和のシンボルである六角形は、
種族神が一堂に会する神墟ナドラグラムの調停の祭壇の他、
アストルティアでも光の神殿の正面入口で見られます。

新プラトン主義の神は一者とする一元論か、
アリストテレス主義の神は個々に宿るとする多元論か。

Ver.3はつまり、一元論(一神教)と多元論(多神教)の争いなのです。


エステラ

個を重んじるアリストテレス主義は、
一者に従うを良しとする一神教のキリスト教会では
12世紀頃までほとんど忘れられていましたが、
十字軍遠征をきっかけにルネサンス(古典復興)が始まると、
一部の神学者がプラトンからアリストテレスへと研究の軸足を移し、
個人主義の基礎が作られていきます。

こうして16世紀以降に持ち上がったのが汎神論であり、
エステラが表明した人間の自由意志は、
個人主義の高まりと共に発露していく事になります。


汎神論の代表的論者である17世紀の哲学者・スピノザは、
新プラトン主義の一元論者でありながら、
アリストテレス研究の強い影響を受けた人物です。

スピノザは神の認識について幾何学的な論証(Q.E.D.)を行い、
無限なる神の一部が有限の様態となって
人間の内側に宿ったのが魂であるから、
一者とは世界全体の事、世界にはむしろ神しか存在しないとします。


六角形

テキストによる説明がメインだったVer.3において、
映像による説明が明確になされたのが、
ナドラガ神にとどめを刺すエンディングシーン。

数学では完全数を表す「6」ですが、
キリスト教の神学ではここに「+1」をする事で完全とします。
数字の6は多元論的世界の調和を表すので、
神である一者を加えた一元論的世界をもって本当の調和としたのです。

1週間が稼働6日に休養1日を加えて7日になったのも、
holiday=聖なる日を明確にする為です。


さて、6人の神の器に加わったもう1人とは、
果たして誰だったでしょうか。


もうお分かりですよね?


女神ルティアナから調和のオーブを授かった主人公は、
6柱の種族神と唯一の創世神の声を認識し、
全ての神の力をその身に宿します。

スピノザの汎神論では、不完全で有限なる人間が、
自己と他者の中に存在する神を認識する時、
神の無限にあずかり、完全なる自由を獲得すると論証しています。

世界は神と一つである。
スピノザはこれを、後述する聖アウグスティヌスの解釈を借りて、

永遠の相のもとに神を認識する

と結論付けます。

完全なる調和(6+1)の中心に居た主人公は、
神の永遠との合一を果たした、という事になります。


奈落の門の先にあるイデアの理想世界で、
全ての原型となる永劫不滅の魂が、
竜の心臓だけでなく、エテーネと呼ばれた人達の中にもありました。

これで中の人の手札には、

  • エテーネ(eterne=永遠

  • 創生の霊核(竜の心臓=永遠

  • 女神ルティアナ(とこしえの揺り籠=永遠

永遠」をキーワードとする、
ストレートフラッシュが完成した訳です。


間違いない、『ドラクエ10』というゲームは
エテーネの民による永遠の旅路をビッグテーマとしているのです。



【Ver.4】 アウグスティヌスの時間論


ドラクエ10

バージョン4 『5000年の旅路 遥かなる故郷へ』は、
アウグスティヌスの時間論をベースに、
エテーネの民が辿るべき永遠の旅路を表しています。

聖アウグスティヌスは、プロティノスの新プラトン主義を
キリスト教の教義に取り込んだ聖人で、
神と人間の間に挟まったキリストの存在を、
三位一体論によって(強引に)克服した事で知られています。


『ドラクエ10』では、エテーネ(etene)の他にもう一つ、
英語が語源になったキーワードがあり、


テンス

それが「時制」を意味する、テンス(tense)の花です。

キリスト教の教義を確立したアウグスティヌスの影響力は、
布教に伴ってラテン語圏の広い範囲に及び、
英語の文法ルールはこの人物が定義した時間論を基に決められたほど。


アウグスティヌスの時間論とは、すなわち、
エンドポイント(end point)をどこに設定するかによって、
時間の線を認識する考え方を示します。

エンドポイントを「過去」に置いた場合、
行動が完了したのはそのポイントより前なのか後なのか、
過去に飛んだ現在の自分の視座から考え、
同様にエンドポイントを「未来」に置いた場合も、
未来に飛んだ現在の自分の視座から行動の前後を考えます。


時制と相

 時制と相
 ▼  … エンドポイント。
 時制 … エンドポイントが設定された時間軸
 相  … 時間から派生した4つの状態


英語の文法ルールである時制(tense)と相(aspect)は、
このような時間の捉え方に基づいて決められており、
どの時間に飛ぶかまだ定まっていない、
エンドポイントが設定される前の状態は動詞の原形で表します。

飛ぶ時間が決まってから、その状態に語形を変化させ、
過去や未来の視座に飛ぶ事になりますが、
未来形はエンドポイントが明確になっていない為、
動詞の原形で表すのがルールです。


ここで重要なのは、動詞の原形は現在形とは異なるという事です。
現在形は「現在」という時間軸に縛られた語形ですが、
動詞の原形は時間の流れの外にあります。

アウグスティヌスは時間の流れの外にある、
始まりも終わりもない状態を「永遠」と呼び、
神は人間の視座に立ってどの時間に飛ぶかを決める事が出来ても、
人間は時間を超える事が出来ない、
従って神と同じ視座に立つ事は出来ないとします。

スピノザはこれを、己の中に神の存在を認識せし時、
神と同じ視座に立つ事が可能になる、
永遠の相のもとに時間を超越する事が出来ると論証した訳です。


エテーネルキューブ

兄弟姉妹が残していったエテーネルキューブは、
プラトン立体と呼ばれるうちの正六面体から出来ており、
これは錬金術と深く関わりのある
カバラの秘術・生命の樹(ツリーオブライフ)に連なります。

主人公とは別のアプローチで「永遠」を探求していたという事ですが、
その辺は今回はひとまず置いておくとして、
主人公はこのデバイスを使ってエンドポイントを設定し、
様々な時間へと超越していきます。



キャラクターズファイル第4弾のクエスト、
『パクレ刑事の事件簿』が問題になったのは、
兄弟姉妹からバトンを受け取った主人公の時間の超越に反し、
Ver.2から積み上げてきたエテーネの旅の道程を、
藤澤さんの言葉を借りれば「スポンジケーキの上のデコレーション」を、
一発で倒しかねないものだったからです。

Ver.4の黒幕が語る時の異分子の存在が
やがて全ての未来を閉ざす終焉の繭となるそうなので、
その前に突然出てきたサブキャラに終焉させられそうになっては、
エテーネ国民の皆様もさぞかし困惑した事でしょう。


いずれにせよ、時見の箱とエテーネルキューブが
同じ正六面体の形をしていて、
どうやらそれが「永遠」のキーワードを指しているというのが、
今後の考察のポイントになってくると思います。

旅の途中のどこかで六角形を見かけたら、
中の人にご連絡下さい。



エテーネの使命とは


20151216-0920_296295561

 レトリウスのいさおし 第5節
 レトリウスの武勇 キュレクスの叡智
 ユマテルの秘術……それらが 原動力となって
 ここに 偉大なる王国が生まれた。

 キュレクスの提言により 新たなる国の名は
 エテーネと定められた。それは 異邦の言葉で
 「永遠」を意味するという。


さて、ここまで話を進めてきた上で、
『ドラクエ10』が「永遠」をキーワードとする共通のテーマを持っており、
各バージョンごとにそれを指し示す物語構造になっている、
というのはお分かり頂けたんじゃなかろうかと思います。


ここで思い出して欲しいのが、とこしえの揺り籠という言葉も、
漢字で書けば「常しえ」「永久」となり、
エテーネ(eterne)と同じ意味になる事です。

永久に続くと思われた世界が、
なぜ滅びの時を迎えたのかは定かではありませんが、
そうなる前に女神ルティアナが竜の心臓を授かり、
まるで古い肉体を捨てて新しい肉体に生まれ変わるかのように、
この世界を生まれ変わらせたのは容易に想像が付きます。


エテーネ

生まれ変わった世界・アストルティアでは、
世界を創った神の加護を受けて何度でも生まれ変わる、
エテーネの民の旅路が描かれます。

神が不在となった後も、その魂には神の永遠が宿っており、
永遠の相のもとに自在に時間を飛び越え、
あたかも神の代理人であるかのように、
神の視座に立って生まれ変わった世界を見守り続けています。


言い換えればこれこそが、主人公が生まれ変わった意味ではないかと。

神の代理人として世界を見守るのが、
エテーネの魂が果たすべき使命であり、
繰り返される「永遠」のキーワードは、
それを伝えようとしているのではないかと思います。




Ver.4.5では、主人公の出生の秘密が
ついに明かされようとしていますね。

その時にどんな事実が語られるのかは、
これを読んだ皆様に確認して欲しいと思います。


中の人の役割はここまで。

ご精読頂き、誠に有難うございました。





(C)2017 ARMOR PROJECT/BIRD STUDIO/SQUARE ENIX All Rights Reserved.
(C)SUGIYAMA KOBO(P)SUGIYAMA KOBO