『けものフレンズ』のキーワード、【フレンズ】の意味を
言語学の見地から読み取った記事になります。





friend =隷属ではない対等な関係


中の人は、言語学者です。

特技は「マジックのタネを見破ること」。

小説などに施された言葉のマジックを
デコーディング(解読)して真意を読み取る、
記号論を専門としております。


けものフレンズ

2017年の話題作、『けものフレンズ』。

私も遅ればせながら視聴しましたが、
第1話を見終わってから早々に、
とある言葉にものすごい違和感を覚えました。


それが、【フレンズ】というキーワード。

ここにマジックのタネが仕込まれていそうなんですよ。



friend

friend(友達)」という英語は、ゲルマン祖語から派生した
古英語の「frēond(愛する者)」を語源としています。

さらに frēond を原型に直すと、「frēo(自由)=free」となります。

古英語が成立した5世紀頃のイングランドでは、
当時の支配者であったゲルマン系の人々が結婚する時、
現地の奴隷を引き連れて家庭を作りました。

奴隷の者は wealh(ウェールズ人の蔑称) と呼ばれ、
アングロサクソン人同士で築いた愛する家族を、
奴隷身分と区別すべく frēond(自由身分の者)と呼んでいます。


けものフレンズ

このように、friend は free と同根の言葉であり、
「あなたと対等である」という強い意味が含まれています。

従って friends と複数形で表す時は、
お互いに対等な関係=相思相愛と認めた場合に限ります。



ジャパリパークに住む動物達には、
明確な上下関係というのが存在しません。

お互いの長所を把握し、短所を補い合い、
平和的で良好な関係を築いていますよね。
へいげんちほーのライオンとヘラジカが部下を率いているのも、
ごっこ遊びのような、ほのぼのとした間柄に見えます。

こうした対等な関係を表すのには、
【フレンズ】という言葉はぴったり当てはまります。



かばんちゃんは friends で表せない


けものフレンズ

ところが、ジャパリパークを管理する側の、
人間に対しては話が違います。

パーク内で飼育されている動物達から見れば、
人間は隷従すべき master =主人に当たります。

park の語源は parc(囲い)ですから、
主人である人間が、囲いの中の愛玩動物に対し、
家族同然の情を抱いている場合は、
一方通行に friend と呼ぶ事もありますが、その逆はありえません。

対等な相互関係を表すのが friends ですから、
人間と動物の主奴関係に、複数形は使えないのです。



ラッキービースト
 第2話 じゃんぐるちほー
 でもびっくりしたよー、ボスがしゃべれたなんて。
 初めて聞いたけど不思議な声してるんだね。

 みんなボスとお話したいと思うよ。
 何で今までしゃべらなかったの?

 ねえ、何か言ってよー!


その証拠に、人間によってプログラミングされた、
ガイドロボットのラッキービーストは、
パークの動物達と口を利きませんよね。

第2話のラッキーさんの説明によると、
作中で固有名詞として用いられる【フレンズ】は、
パーク内で展示されている動物に対して適用されるようで、
動物達はガイドロボットの事を boss(管理者)と呼び、
friend ではないとはっきり認識しています。

人間と動物との間にある隔たりを、
否が応にも察する事になります。


ジャパリバス

とどめは、この捨て置かれたジャパリバス。

隷属から解放された【フレンズ】が暮らすパークの中で、
人間の痕跡が次々と発見される事が、
強烈な違和感として襲いかかってくる訳です。


なぜ管理者(人間)が不在なのか?

と。



ガイドロボットと会話が出来るかばんちゃんは、
明らかに人間として描かれている為、
こうした違和感は当然、かばんちゃんにも向けられます。

作中に仕掛けられたマジックの数々は、
かばんちゃんの正体にタネが隠されている、と、
容易に理解出来るように実に上手く誘導されており、
【フレンズ】というキーワードも、
ちゃんと裏付けが出来ているんですよね。



本当の frēo(愛) はここにある


ジャパリ図書館
 第7話 じゃぱりとしょかん
 あなたは……ヒトです!

自分が何者であるか分からぬまま、
ジャパリパークに生まれ落ちたかばんちゃんは、
何の動物かを探し当てる旅の果てに、
コノハズク博士からヒトの【フレンズ】である事を教えられます。

と同時に、ヒトは既に絶滅した種族だと伝えられ、
管理者不在の理由も明らかになります。


その後は怒涛の展開から感動のエンディングへと続くのですが、

さて、かばんちゃんと動物達との関係に、
変化が生まれたのはお気付きだったでしょうか?




かばんちゃん
 第11話 せるりあん
 ありがとう…元気で。

【フレンズ】を捕食する天敵・セルリアンに、
黒い色をした巨大な個体が現れ、
かばんちゃんがサーバルちゃんを助けた後、
安全を確保する為に自ら犠牲になるシーンですね。

実はこれが、タネ明かしになってるんです。



紙飛行機

セルリアンの体内に捕らわれたかばんちゃんを救う為、
サーバルちゃんは苦手だった火を克服し、
かばんちゃんから作り方を教えてもらった紙飛行機を飛ばして、
敵の注意を引き付けます。


木登り

無事に救出されたかばんちゃんは、
パークの動物達にお別れを告げる際に、
苦手だった木登りが出来るようになったのをアピールし、
島の外へと旅立っていきます。


かばんちゃん

かばんちゃんは巨大セルリアンに襲われた時に、
ヒトの【フレンズ】の姿を構成するサンドスターを奪われ、
元の人間の姿に還っています。

見た目こそ変わっていませんが、
かばんちゃんはこの時、パークの管理する側の立場に戻り、
動物達との関係に線引きが為されているのです。


にも関わらず、サーバルちゃんとの信頼関係が
後々も維持されていますよね。




ラッキービースト
 第12話 ゆうえんち
 サーバル、3人での旅、楽しかったよ。

これは boss の台詞にも表れています。

ラッキーさんによれば、ヒトの緊急事態対応時のみ、
【フレンズ】への干渉が許可されている、とありましたが、
「楽しかった」はそれを越権しています。


本来であれば、かばんちゃんが
ヒトの【フレンズ】から人間に還った時点で、
人間と動物との間にあった主奴関係が復活するはずでした。

かばんちゃんはジャパリパークの来園者として、
囲いの中で飼育されている愛玩動物に、
距離を置いた安全な場所から適宜に感想を述べていく、
一方通行の関係に戻らなければなりません。

それが、パーク内での共有体験を通じて、
撤廃されていたという事ですね。

3人はいつの間にか、対等な関係になっていました。


サーバルちゃん
 第12話 ゆうえんち
 ねえ、かばんちゃんを返して!返してよ!

 怖がりだけど、優しくて、
 困ってる子の為に、色んな事考えて、頑張り屋で、

 まだ、お話しする事も、一緒に行きたい所も…

 ううう…返してよ!


かばんちゃんとサーバルちゃんの相互理解は、
かばんちゃんが人間に戻った後も、
お互いの長所を把握し、短所を補い合う、
対等で上下関係の全く無い、
あるべき姿の friends(友情)として成立しています。


まさに、

本当の frēo(愛)はここにある、

という訳です。



かばんちゃん
 第12話 ゆうえんち
 ごはんの探し方も教えてもらったし、
 安全な眠り方も聞いたし、
 木登りだって出来るようになったから…

 だから大丈夫!


2人のやりとりに胸を打たれるのは、
かばんちゃんとサーバルちゃんの友情が本物であると、
観ている人に伝わった証でしょう。
friends という言葉は、この2人にこそ相応しい。

そのように理解するのに、
考える時間は必要ありません。

脚本構成力の勝利であると言えます。



専門家ほど正しく評価出来ない


『けものフレンズ』は、マジックのタネを知っている人達が観ると、
なーんだ、この程度のものかと感じると思います。

小説などでは使い古された表現であるからです。
後追い視聴なら尚の事。

ゆえに、タネを知らない初見の人達の方が、
目の前で繰り広げられるマジックを、
驚きと感動をもって受け入れられるはずです。

大ヒットの理由は、よくある量産型の擬人化アニメだと思った視聴者に、
あれっ?と思わせる手品のような鮮やかさで、
珠玉とのすり替えを行ったからでしょう。


friends という極めて平易な単語に、
多くのメッセージを載せて届け、
全国中をすっかり虜にしてしまったたつきマジック。

次回作も注目していきたいですね。




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