『ポケットモンスター ソード・シールド』の舞台はイギリスです。

記号解読の武泰斗様、スチュアート・ホールのお膝元。

武泰斗様から亀仙人を通じて記号論を学んだ私は、
シリーズ作品のシナリオ構造を分析する事で、
ストーリーの先読みを行ってきました。


ポケモンのシナリオ構造と記号化については、
以下のリンクに纏めてあります。








ドラクエや仮面ライダーでは予想が上手くいきましたが、
果たしてポケモンではどうなのか。

予想が当たったら褒めて下さい。






ポケモンシリーズに共通する「共生」のテーマ


ブラックホワイトXYルザミーネ

ポケモンシリーズは、2代目ディレクター・増田順一さんになって以降から
二項対立の世界観を取り入れるようになり、
ブラックホワイト、XY、サンムーンの直近3作品では、

利己的な歴代ボス vs 利他的な主人公

という構図で、生物の多様性と相利共生を表現してきました。


特に、シリーズ初の黒人ジムリーダーが登場したイッシュ地方では、
人種の坩堝と呼ばれた街・ニューヨークをモデルに、
黒人(ブラック)と白人(ホワイト)が共存する文化多元主義を描こうとした痕跡があり、
Nという難解なキャラクターが白と黒が混じり合う坩堝社会から脱し、
白と黒を切り分けたサラダボウル社会を作ろうとしていました。

ところがこれを主人公に阻まれ、
白と黒は一種(イッシュ)に同化してしまいます。


文化多元主義と多文化主義

当時の多元主義は結局の所、白人社会を中心とした考えに過ぎず、
異なる人種・異なる民族を坩堝の中に放り込んでマジョリティ文化とシャッフルし、
マイノリティ文化が消えてなくなる事を望んだものでした。
ポケモンの解放を理想としたN自身が、
モンスターボールを使ってポケモンを捕獲していたくらいですし。

現在ではポリティカル・コレクトレスの立場から、
多元主義(Pluralism)と言えば、全ての文化に優劣を無くし、
人種・民族を横並びに捉える多文化主義へと移り変わっています。

ブラックホワイトのストーリーを今振り返ってみると、
白と黒が同化して独自のアイデンティティを失う結末とか、
もはやホラーですね…。


イギリスのEU離脱の原因 単一文化主義vs多文化主義


ダンデ

で、以上を踏まえて私が気になったのが、
ソードシールドのプロモーション映像において、
ブラックホワイトの時以上に様々な人種が登場しており、
中でもガラルリーグ・チャンピオンのダンデが、
アウトサイダーの象徴である褐色・黄眼の容姿をしている点です。

黒人のチャンピオンならアイリスという前例がありますが、
移民の街・ニューヨークと、イギリスとでは登場の意味合いが全く異なる。


イギリスは伝統と慣習の街です。
国土が貧相で料理がマズいと言われながらも、
古くからの伝統を大切にし誇りにすら思っている人達の国です。
外敵からの4度の侵略に晒され、国土を奪われてもなお、
血を流しながら戦い独立を勝ち取ってきました。

そのイギリスで、よりにもよって国内王者の地位が、
アウトサイダーによって簒奪されているのです。

しかも黄色は裏切り者・ユダの証
かつては法を犯した者に黄色い服を着せて罰していた歴史があります。
伝統を重んじるイギリスの保守派が最も忌み嫌うであろう、
褐色・黄眼の容姿を与えられたのがダンデであり、
彼には間違いなくアンチが居る事が一発で分かります。


今回のソードシールドのストーリー、

黒人チャンピオンを支持する多文化主義と
それを排除したい単一文化主義


この二項対立で構成されそうな予感がビンビン来ますね。



キャメロン

イギリス保守党、デービット・キャメロン元首相

単一文化主義は、イギリスのEU離脱の決定的な流れを作りました。

イギリスで労働党が政権を握っていた頃、
多文化主義国家を目指すと宣言したブレア首相が
EU圏内からの移民に門戸を解放しますが、
移民の流入がイギリス政府が想定した3倍以上もあり、
国内の雇用や居住地を圧迫し続けました。
(イギリスではこれを「自死」と呼んでいます。)

労働党→保守党に政権が移った後、
キャメロン首相が多文化主義の失敗を認め、
移民問題の渦中にあるロンドン市長らを説得すべく、
EU離脱の国民投票を行います。

その結果がEU離脱の決定、すなわち単一文化主義の勝利です。
スコットランド独立の引き留めに成功した首相でさえ、
反グローバリゼーションの流れには抗えなかったのです。


現在のイギリスは多文化主義の国ではありません。
ジェームス・ボンドが黒人女性に変わろうものなら、
あっという間に批判が殺到する、他民族化に極めて不寛容な国です。

「共生」をテーマに描いてきたポケモンシリーズが、
ここに目を付けないはずがない。




ゲームフリーク


ガラル地方の無敗の王者・ダンデは、
Nが成し遂げられなかった「対立色の併存」を果たせるのか。

これは増田さんから大森ディレクターへのバトンタッチであるとも思ってます。

ブラックホワイトで人種・民族に引っ掛けて
生物の多様性を描こうとした試みは、
Nの訳の分からなさを含め、決して上手くはいきませんでした。

ソードシールドでは、イギリスの社会問題に引っ掛けて
この試みに再挑戦しているように見えます。

前作・サンムーンでリーリエにコペルニクス転回させた大森さんなら、
やってくれるんじゃないでしょうか。



ザシアンとザマゼンタから分かる事


ザシアン・ザマゼンタ

さて、ここでもう1つの疑問が生まれます。
ソードシールドのモチーフである「対立色」についてです。


剣と盾という矛盾した二項対立の構図を表現するのであれば、
ザシアンとザマゼンタの2体で足りるんですが、
それぞれがモチーフとする「シアン」と「マゼンタ」を対立色と呼ぶには、
あと1色、「イエロー」が足りません

どう考えても、二項対立に挟まっている存在があるんですよね。


プルーラリズム



シアン、マゼンタ、イエローで表される3原色は、
減色混合と呼ばれる色の組み合わせで他の様々な色を生み出します。

そしてイギリスでは、移民受け入れの支持者が、
二項対立の克服=多元主義(プルーラリズム)を説明するのに
このような3すくみの図を使っていた、というのがポイントです。


イギリスの都市部では、インド・パキスタンなどの移民流入に伴う
イスラム化が社会問題になっています。

彼らはイギリス国内法ではなく、イスラム法に従います。
そこで法学者は、国内法とイスラム法の二項対立を克服すべく、
法社会のあり方を変え、両方の法廷を作って並存させる事を提案しました。

この時に使われたのが、プルーラリズムを示す3すくみの図です。


剣盾

シアン、マゼンタという、もう1つの色を容易に想像させるネーミングに加え、
ザシアンとザマゼンタがあまりにも似すぎている事、
そして剣と盾という二項対立の構図を採用している事からも、

ブラックホワイトでは黒人と白人だけだった対立軸に、
ソードシールドではさらに色を加えて、
カラーパレットのような世界観を生み出そうとしているのではないか?


と私は見ています。


これぞまさにイギリスの多文化共生。
ポケモンシリーズ最高傑作になる神作臭が半端ないですが、
当たるも八卦、当たらぬも八卦という事で、
予想が外れても石をぶつけるのは止めて下さい…!

という訳で、ソードシールド発売日の11月15日に
またお会いしましょう。