象徴化を手掛かりとした「ヒーロー」のコンテクストから、
理想のヒーロー像について考える記事です。





緑谷出久は almight(万能)になれない


緑谷出久

『僕のヒーローアカデミア』の主人公・緑谷出久くん。

例えば、戦隊モノや仮面ライダーに熱狂する子供に、
出久くんが戦うシーンを見せたとして、
日曜朝の顔にタメを張れるほどの、
ヒーローの類型として認識されるでしょうか?


ヒーローたる者、全てにおいて秀でていなければなりません。
何かひとつでも抜かりがあってはならない。

進学塾で講師の仕事をされていた方なら、
耳にされた事があると思いますが、
プロの世界では、「ヒーロー」である事が求められます。
文理共に優秀な成績を収める講師でも、
字が下手」という理由でクビにされます。

生徒から舐められるからです。

ヒラリー・クリントンが大統領になれなかったのも、
脱水症状で倒れる姿を人前に晒し、
弱々しいイメージを与えてしまったせいですね。

指導者なら肉体的にも強くて当たり前。

ヒーローは、almight(万能)でなくてはならないのです。



オールマイト

平和の象徴・オールマイト。

「All Might」の名が示す通り、彼は
パワー、タフネス、スピード、どれを取っても非の打ち所が無く、
あらゆる個性が集う超人社会の頂点に立っています。
いかにもアメリカンヒーローな出で立ちで、
DCコミックスのスーパーマンや、
マーベルコミックのX-MENを彷彿とさせます。

世界最強を自認するアメリカでは特に、
こういう筋骨隆々とした強いヒーロー像が好まれますが、
作者・堀越耕平せんせいにとっても、
万能性こそが理想のヒーロー像であると、
一目で分かるようなキャラクターになってます。


ヒーロー
 第1巻 No.3「入試」
 あいつ校門前でコケそうになってたやつだよな。
 注意されて萎縮しちゃった奴。

 少なくとも一人はライバル減ったんじゃね?



対する出久くんの場合、雄英高校の入試の時から、
既に周りに舐められていますよね。

校門前で躓いた事で「運動音痴」と、

飯田くんからの注意にビビった事で「小心者」と、

他人よりも劣った印象を与えてしまっています。


ヒーロー

欠点だらけの緑谷出久くんは、
ヒーローから最も遠い存在=木偶(デク)として描かれています。

出久くんは将来必ず、ヴィランからも舐められます。
木偶の坊(役立たず)の意味通り、
彼は Almight =万能超人にはなれない。
アメコミのヒーロー像とは対極にあるのです。



「ヒーロー」のコンテクストを受け継ぐ


さて、アメコミにもナチュラルボーンヒーローではない、
後天的に個性を獲得したヒーローが居ますよね。


キャプテン・マーベル

その中の1人が、キャプテン・マーベル

心優しい孤児の少年、ビリー・バットソンが変身する、
アメリカのスーパーヒーローです。

バットソン少年は、ロックオブエタニティに住む
魔法使いシャザムから変身能力を授かり、

「SHAZAM!」と叫ぶ事で、

 Solomon(ソロモン)の知力
 Hercules(ヘラクレス)の剛力
 Atlus(アトラス)の体力
 Zeus(ゼウス)の能力
 Achilles(アキレス)の勇気
 Mercury(マーキュリー)の速力

6人の神々の力を備えた大人のヒーローに変身します。


いかにも取って付けたような設定ですが、
それもそのはず、キャプテン・マーベルというヒーローは、
スーパーマンのコンテクスト(文脈)から生み出された、
二番煎じのキャラだからです。

事実、スーパーマンの出版元・DC社から著作権侵害で訴えられ、
後にヒーロー名を「シャザム」に改めて、
スーパーマンと同じDCヒーローの一員になってます。


シャザム

スーパーマンことクラーク・ケントは、
クリプトン星からやって来たナチュラルボーンヒーローであり、
全てのアメリカンヒーローを象徴する存在です。

後に生み出されたヒーローは、
スーパーマンのコンテクストを模倣して生まれた、
と言っても、決して過言ではありません。

ベンジャミン・フランクリンに始まり、
ジョン・モルガン、アンドリュー・カーネギー、ヘンリー・フォードのような、
アメリカンドリームを掴んだ成功者にはなれないけれど、
上昇志向だけは持ち続けていたいという、
アメリカの人々の「強さ」への矜持が、
空飛ぶスーパーマンの姿に集約されている訳です。


一方のキャプテン・マーベルは、
出版差し止めとなるまで、本家を越える人気を博しました。

理由はビリー・バットソン少年の出自にあります。
生まれながらのヒーローよりも、普通の少年が活躍する方が、
ターゲット読者の心に刺さったのです。

このマーケティング結果を受けて、
一般市民が後天的に能力を授かる設定は、
ライバル社・マーベルコミックに積極的に取り入れられ、
スパイダーマンやファンタスティックフォーに引き継がれます。


ワンフォーオール

スーパーマン1人に集約された「ヒーロー」のコンテクストは、
キャプテン・マーベルの商業的成功によって、
多岐に分かれ広がっていきます。

他社を権利侵害で訴え、スーパーマンのみを真のヒーローとする
DC社の試みは、結果的に失敗したのです。


オールマイトの個性「ワン・フォー・オール」は、
単に漫画の世界の能力というだけでなく、
1930年代のアメリカで誕生し、80年後の現在まで引き継がれてきた、
「ヒーロー」のコンテクストを強く反映したものです。

緑谷出久くんはオールマイトから、
"平和の象徴"を受け継いだのだと言えます。


オールマイト

出久くんは、オールマイトにはなれないかも知れません。

ですが、スーパーマンのコンテクストを受け継いで生まれた
キャプテンマーベルが本家を超えたように、
更に向こうへ(Plus Ultra)と前進する事は出来ます。

スーパーマンも実は超能力の攻撃に弱かったり、
思ったより万能では無いですしね。


欠点だらけの少年が、最高のヒーローへと成長していく。
何ともアメリカンドリームな話です。

このコンテクストをアメリカに逆輸入すれば、
大ヒットするかも知れませんよ。



「敵」のコンテクストを受け継いだ死柄木弔


死柄木弔

『僕のヒーローアカデミア』には、ヒーローの敵側にも、
「敵(ヴィラン)」のコンテクストを受け継いだ、
死柄木弔なる、おどろおどろしい名前のキャラが登場します。

作中では、「象徴」「シンボル」という言葉が度々使用され、
「ヒーロー」と「敵」を先代から受け継ぐ者として、
緑谷少年と死柄木の2人にバトンタッチされる様子が描かれます。


シンボル哲学という学問に通ずる所があり、
ジャンプのような少年誌でこれを扱う漫画家さんが居る事を
前から不思議に思っていたのですが、
作者・堀越耕平せんせいの経歴を見て納得。

堀越せんせいの出身である名古屋芸術大学では、
学科を問わず象徴主義について教えています。
なるほど、芸大から受け継いだ能力が、
堀越せんせいの中にストックされ増幅された訳ですね。


週刊少年ジャンプでは、『暗殺教室』をはじめ、
昨今ではプロットの完成度が高い作品が目立ってきています。

『僕のヒーローアカデミア』もその1つ。

コンテクストを受け継ぐ者同士の戦いが、
しっかりコントロールされており、
11巻以降から始まる新展開にも胸が躍らされます。


出久くんはキャプテン・マーベルになれるのか。

私は鷹村守より幕之内一歩派なので、
今後も出久くんの逆転劇を応援していこうと思います。




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