ポケモンソード・シールドには、イギリス人ならすぐに気付き、
日本の人達にはスルーされるであろう、
英国に纏わる小ネタの数々が仕込んであります。

今回は考察記事には入りきれなかったネタを
11に分けてピックアップしてみました。

※1つ追記して12になりました。


それではいってみましょう、
細かすぎて伝わらない剣盾小ネタ集、
スタートです。






柵の向こう側


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柵の向こうにあるまどろみの森は、ソニアの説明によれば
ザシアンとザマゼンタの故郷に近い場所だといいます。

バドレックスが隠れ住む冠の雪原が最奥にあり、
ここは実際のイギリスの地図で言うと
スコットランド北部の山岳地帯・ハイランドに当たります。





剣盾ではムゲンダイナをイングランドの神に準えてあります。
つまり柵の向こう(ハイランド)はムゲンダイナの支配の外です。

ねがいぼしによって決定される未来が不確定である為、
各場所に配置されているリーグスタッフも居ませんし、
マクロコスモス社の近代化の手も及びません。

大人の言い付けを守らず森に立ち入ったホップと主人公は、
何でも大人が解決してくれる世界から逸脱し、
自分の手で未来を掴み取る選択が、
既にこの時から始まっていたのでした。



ねがいぼしが決定する未来


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ねがいぼしはムゲンダイナの一部であったと、
エンディング後にマグノリア博士が説明していました。

ムゲンダイナをキリスト教の神とするなら、
ねがいぼしは不確定な未来を確定させる神の恩寵です。


英語圏での過去・現在・未来の捉え方は、
時制ルールに従うのはご存知でしょう。

そして英語には未来時制がありません。
未来が不確定な為、will+動詞の原形で表します。

未来を確定させる事が出来るのは、God's Will(神の意志)のみ。
ねがいぼしはそんな神の意志の一部であり、
これを手にした者は、神の意志によって決められた
予定調和の未来を歩む事になります。

『ゼノブレイド』のモナドとほぼ同義です。



未来はすでに俺の手の中にある


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ホップが手に取ったねがいぼしは、
予定調和の未来を決定する神の一部でした。


イギリスを代表する詩人、ウィリアム・ブレイクの詩に、

To see a World in a Grain of Sand
And a Heaven in a Wild Flower
Hold Infinity in the palm of your hand
And Eternity in an hour

『Auguries of Innocence』より

とあります。

Hold infinity in the palm of your hand(手のひらに無限を)
とはもちろん、The Infinite=神を手中に収めるという意味であり、

eternity in an hour(一時に永遠を)
とは、The Eternal=神の一部になるという意味です。


ウィリアム・ブレイクは、千年王国の実現を目指した
ランターズ運動に強い影響を受けた人物であり、
神によって未来が決められるとする恩寵論の支持者であります。

ホップがねがいぼしを拾って願いを3回唱えるシーンは
このブレイクの詩の世界観のまんまなのです。
未来はすでに俺の手の中にある!でお馴染みのゴウの決め台詞にも、
こうした設定が強く反映されています。



ザシアン・ザマゼンタがダイマックス出来ない理由


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前述の通り、ザシアンとザマゼンタの故郷は
ムゲンダイナの支配の外、スコットランド(ハイランド)にあり、
アングロサクソンが連れてきた神の恩寵が及びません。





ハイランドは1000年以上前の風景がそのまま残る、
イギリス人の心の故郷とされる場所です。
平地にあったローランドとは異なり、
イングランドとの同化を拒んで独自性を保ち続けました。


ダイマックスはガラル地方の外からやってきた
ムゲンダイナがもたらした力ですので、
ガラル地方に元々住んでいるザシアン・ザマゼンタが
ダイマックス出来ないのは当然と言えば当然でしょうか。

同じ理屈でガラル地方の太古の王だったという
バドレックスもダイマが使えないはずです。



スパイクタウンでダイマックス出来ない理由


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イギリスのパンクロックは反国家・反体制の象徴です。

権力への反抗について纏められた
Achamoth様のこちらの記事が大変参考になるかと思います。

ポケモン剣盾があまりにパンクすぎたので思う存分語る。
https://note.com/achamoth_haru/n/n92a9c4f85b50


ジムリーダー・ネズはガラル地方で唯一、
マクロコスモスの一部に取り込まれるのを拒み、
ねがいぼしに頼らずに自力で未来を切り開いた人物です。

スパイクタウンでダイマックス出来ないのは、
神の見えざる意志(God's Will)によって
未来が勝手に決められるのを拒絶しているからでしょう。

ムゲンダイナ騒動でマクロコスモス社に楯突いた際にも、
夢に破れたホップが自らの意志で進むべき道を決めた際にも、
力を貸してくれたのが何を隠そうネズさんであり、
この人物と絡ませる事自体がシナリオ構成の上において、
神の意志から脱却する伏線だったという訳です。



「1000年」先の未来


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ローズの言う「1000年」とは、単に1000年間を表すのではなく、
キリストが再誕し地上に至福をもたらす期間、
すなわち「至福の1000年間」を指すと見られます。

千年王国(ミレニアム)と呼ばれるこの思想は、
ピューリタン革命の際にプロテスタントに支持され、
ロンドンの街で大ブームとなりました。


ローズは「永遠に安心して発展する」のに必要なピースとして
ムゲンダイナという神を迎え入れ、
ガラルの全てをマクロコスモスの中に取り込む準備を行っています。

マクロコスモスの中では神の意志である
ねがいぼしによって予定調和の未来が決められます。

ローズの真の目的は、人々が神の恩寵に従い、
1000年先までの安息を得る千年王国の実現にあり、
その為に無敵のチャンピオン・ダンデに
ムゲンダイナを捕獲してもらう手筈になっていたのでしょう。



お姫さまをドラゴンから守るナイトのようにね


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日本語テキストで見ると
何のこっちゃよく分からないこの台詞。

英語版では

 Indeed, just like a knight in shining armor coming
 to rescue a princess from a dragon!


となっており、「knight in shining armor」は
具体的に「白馬の騎士」を指します。

イギリスで白馬の騎士と言えば、
生贄に捧げられるお姫様をドラゴンから救った
聖ジョージ(聖ゲオルギウス)をおいて他に居ません。


つまりローズの台詞は、聖ジョージ伝説のヒロインに
自分の境遇を例えているのであり、
ダンデをイングランドの守護神にして殉教者に仕立てようとした、
目的の為なら手段を選ばぬ狙いが透けて見えます。



ムゲンダイナのタイプがどく・ドラゴンの理由


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ムゲンダイナはどく・ドラゴンタイプ。
聖ジョージが倒した毒竜がモデルになっています。

キリスト教におけるドラゴンの存在は
蛇に翼を付けて神格化したサタンの象徴であり、
至福の1000年の間は鎖で縛って幽閉しておくとされています。


ローズの計画では、ムゲンダイナはモンスターボールで捕らえられ、
ガラルの繁栄の礎として幽閉されるはずでした。

災厄を招くはずの邪悪なドラゴンを
永遠の発展をもたらす「神(Eternatus)」とし、
自分をドラゴンに捧げられる「お姫様」と呼んでいる辺りが、
ローズがどこまでも劇場型の人間であり、
根っからの興行師である事を印象付けています。



ローズ委員長の名前の由来


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自らをお姫様に準えたローズの名前もまた、
聖ジョージの日に飾るイングリッシュ・ローズがモデルです。

聖ジョージが倒した毒竜の血が地面に流れ、
そこに赤いバラが咲いたという有名な伝説が基になっており、
ブリティッシュネス(英国らしさ)をスローガンとする
現イギリス首相、ボリス・ジョンソン氏が
ロンドン市長を務めた2009年、聖ジョージの日(4月23日)に
襟に赤いバラを刺す風習を復活させています。


赤いバラは、テューダー朝から続く
イングランド王室の伝統的な紋章でもあります。

大英帝国と呼ばれたかつてのイギリスが、
繁栄から衰退に至ってもなお咲き続ける矜持が、
赤いバラには込められています。

ローズも本心ではガラルの人々を愛していたに違いありません。

彼もまた、ねがいぼしにガラルの永遠の安心と発展を
嘘偽りなく誓った1人なのだと思います。



マクロコスモス社の企業ロゴ


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マクロコスモス社の企業ロゴに採用されている六角形。

数学において約数の和が等しくなる「6」の数字を完全数と言います。
ピタゴラスはこれを調和が取れた状態とし、
旧約聖書の天地創造が6日で行われた事にちなんで
完全なる宇宙の姿(kosmos)と捉えました。

ピタゴラス学派は太陽を中心とする宇宙論を唱えますが、
プラトン学派のアリストテレスは地球を中心に見た天動説を唱え、
後にキリスト教の教義に取り入れられます。


これに対し、キリスト教における完全数は「7」とされ、
ピタゴラスの宇宙を示す「6」は不完全とされます。
ギリシャ神話の多神的宇宙に、唯一にして完全なる神を加えた7日間の方が
一神教を広めるのに都合が良かったからです。

ローズは数学的な宇宙の姿(六角形)から、
聖書的な宇宙の姿(+1)への転換を目指しました。

ガラル地方の全ての秩序構造を掌握したマクロコスモスの宇宙には、
たった1つだけ、唯一神(+1)の存在が足りなかったのです。



現在から未来へのバトンタッチ


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剣盾では、旧世代から新世代への世代交代が描かれます。
  • ダンデ   → 主人公
  • ポプラ   → ビート
  • ネズ    → マリィ
  • マグノリア → ソニア → ホップ
ここで強調されるのは、古い時代は永遠には続かない、
新しい時代へと人の意志が受け継がれていく、
現在から未来へのバトンタッチです。


「未来」というキーワードは、ストーリー中に頻繁に出てきます。

ラストバトルとなるチャンピオンマッチでは、
無敵のチャンピオン・ダンデの、

 ガラルの 未来を 変える
 極上の 決勝戦に するぜ


の台詞から始まり、

 まだまだ チャンピオン タイムは
 終わらない! 終わらせないッ!!


と感情を剥き出しにしてくる戦いぶりに
思わずヒートアップした人も多いでしょう。


作中において「champion time」は、
今から無敵のチャンピオンが活躍する時間が始まりますよ、
というスーパーヒーロータイム的な意味で使用されていましたが、
ラストバトルのこの時だけは、

俺の時代は終わらない、終わらせない

と、古い時代を築きあげた王者の信念を
主人公に突き付ける意味で使われているのが分かります。


そして、

 チャンピオン タイム イズ オーバー
 最高の 試合に ありがとうだ!

古い時代の終焉を自ら告げた後、
ダンデは「未来」のキーワードを5回も使用して
新しい時代の到来を歓迎しています。

現在から未来へ、世代交代が滞りなく完了した瞬間です。


また、剣盾ではウルトラサンムーンまで作曲に携わっていた
増田順一さんが完全に離れており、
代わりに『Brand New World』を編曲したBGMが
戦闘や街など至る所で用いられています。

ダンデの台詞は、増田さんから大森さんへ、
新旧ディレクターのバトンタッチ
歓迎する意味が込められているのかも知れませんね。



チャンピオンマッチがなぜ「3日後」に行われたか


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ブラックナイトの英訳は「the Darkest Day」。

輝かしい未来「bright future」を遮る暗雲として
象徴的に使われているこの言葉は、
本来は「冬至」という意味で使用されます。

the Shortest Day(日中が最も短い日)と同義です。


冬至は例年では12月22日前後に訪れますが、
さて、12月22日の3日後が果たして何を表すのか、
もうお分かりですよね?


そう、キリスト再誕の日である
12月25日です。



キリスト教は原始ミトラ教の影響をもろに受けており、
マクロコスモスで定義される太陽の動きを教義に取り込んでいます。

日中が最も短い冬至は、不滅の太陽の「死」を表し、
これより3日間は太陽の「再生」を経て、
新たな世界へと生まれ変わっていきます。


つまりブラックナイト(the Darkest Day)とは、
マクロコスモスの世界の終わりを具体的に指す日です。

無敵のチャンピオンという太陽が沈み、
3日後に再び昇ってきた新しいチャンピオンと共に
brand new world(刷新された世界)が始まる、
という仕組みになっている訳です。


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どうですか、この完璧なシナリオ構成。

剣盾には細かすぎて伝わらない小ネタが多すぎます。

今回纏めた12のネタはシナリオ構成に関わるごく一部、
まだまだ多くのネタが仕込まれています。

是非とも見つけてみて下さい。