2017年10月14日より、アニメ第2期が始まる
『3月のライオン』を物語構造から分析する記事になります。





隅田川の地理的特性


隅田川

このアニメには、「河」がよく登場します。
主人公・桐山零くんが川沿いの町に住んでいるという設定なので、
当然だと思われるかも知れませんが、
実はこの「河」には、大きな意味が含まれています。

作中に出てくる「河」は、隅田川の事です。

原作1巻の表紙に描かれているハープ橋は中央大橋の事で、
桐山くんが3姉妹の暮らす川本家に通う際には、
中央大橋を使って佃島へと渡ります。


隅田川
(引用:江戸の大川(隅田川)の橋

さて、この隅田川。

川の案内には

「古隅田川がまだ大河であった頃は、武蔵国と下総国の国境」

であったと書かれてまして、隅田川を挟んで
西側が武蔵国、東側が下総国となっていました。

今でこそ古利根川に主流を奪われていますが、
かつての隅田川は利根川の本流であり、
頻繁に氾濫を繰り返す暴れ川として知られていました。


(参照:荒川の瀬替え | 荒川上流河川事務所 | 国土交通省 関東地方整備局

江戸時代に治水工事が行われ、
1660年以降に橋が架かり、川の東側も栄えましたが、
大昔では、川の向こうは朝廷の支配が及ばない蝦夷(えみし)の国。
「亡国」と呼ばれた場所に当たります。

奈良時代末期に征東将軍が下総国を治めるまで、
武蔵国がこの世の最果てだった事もあってか、
隅田川には身投げや人攫いのエピソードが多く残されており、
謡曲・落語の題材になっています。

東下りをする都人にとって隅田川の向こう側は、
三途の川渡りを想起させる、生と死の境界線だったのです。



三途の川の此岸と彼岸


桐山くんが住んでいる六月町は、
隅田川河口の西岸、東京都中央区新川にあると見られます。

川本家がある三月町は、隅田川河口の佃島付近、
古隅田川で言うと西岸と東岸のちょうど間にあります。

隅田川から8キロ西に進むと、将棋会館のある渋谷区千駄ヶ谷に着きます。


隅田川

隅田川を挟んだ東西の位置関係を整理すると、
桐山くんが住んでいるマンションは旧武蔵国の国境に位置します。

ここはかつての三途の川の此岸。

桐山くんは将棋を指す時だけ、
つまり将棋会館に行く時だけ「河」から離れますが、
それ以外の時は自己の存在があやふやなまま、
この世の淵で彼岸(死)を見つめて暮らしている訳です。


3月のライオン

桐山くんの部屋には、最初は何もありません。
ベッドも無い、カーテンも無い、
何も無い場所(零)として描かれています。

義理の姉の香子の、

「アナタの居場所なんて、この世の何処にも無いじゃない?」

という言葉に対して、桐山くんは自分の存在を
ひたすら否定して生きてきました。

零の部屋は、今際の際に立っている桐山くんが、
この世に作り出した「生」の居場所です。


3月のライオン

桐山くんはハープ橋を渡って、隅田川の西と東の間、
すなわち此岸と彼岸の間にある川本家に通うようになります。

そしてそこで「生」の実感を得て、
此岸のマンションに持ち帰ります。


3月のライオン

川本家の人々は、彼岸の真っ只中にあり、
三途の川を渡ってしまった母親と祖母を悼みながら、
残された家族で懸命に生きています。

桐山くんは、生きる事を決して諦めない川本家から、
「生」をお裾分けしてもらい、
何も無かった部屋を満たしていくのです。


3月のライオン

零だった部屋は、次第に物が増えていきます。

川本3姉妹や親友の二階堂くんが頻繁にやってきて、
重箱やソファーベッドを置いていきます。

こうして「生」を獲得した桐山くんは、
今度は彼岸に暮らす川本家を此岸へと引き戻すべく、
彼なりの優しさで救い出そうとするのですが、

それはまだ後の話。



夏目漱石作品との共通点


アニメ第2期では、二階堂くんとひなちゃんの勇気をもらい、
自己否定から自己肯定に転じる様子が描かれます。


夏目漱石
(参照:『3月のライオン』の心象描写

以前、別のブログにも纏めたように、
『3月のライオン』は夏目漱石作品とテーマが一致します。

漱石の文学は、自己肯定か自己否定の2択であり、
自己肯定の代表が『坊ちゃん』、自己否定の代表が『こころ』となります。

もしも桐山くんが独りぼっちのままであったなら、
彼は自己否定から立ち直る事はなく、
「先生」や「K」のように、いずれ三途の川を渡っていた事でしょう。


3月のライオン
 第5巻:自己否定から自己肯定に転じるシーン
 ありがとう。君はぼくの恩人だ。

 約束する、僕がついてる。
 一生かかってでも、僕は君に恩を返すよ。



ひなちゃんは「河」の淵で、

「わたしのした事は、ぜったい、まちがってなんか、ない!!」

と言い放ち、自らの行いを肯定します。


彼女の言葉に深く共感した桐山くんは、
暗い水の底から這い上がり、
この後、新人戦トーナメントを破竹の勢いで勝ち続けます。

彼岸から此岸に戻ってくる起点となったのがこのシーンです。


「生」の肯定がどのように描かれるのか、
原作でもまだ半ばといった所ですが、
ちょうどこの5巻からアニメも再スタートするので、

「河」のこちら側か、向こう側か?

を確認しながら視聴すると、面白いと思います。


アニメ2期に注目です。




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