『ドラクエ11』の考察第2回は、
「悪魔の子」とデルカダール王国の関係について解説していきます。

なお、真エンディング到達までの
重大なネタバレを扱う為、ご注意下さい。




以下、ネタバレ注意↓↓↓
















双頭の鷲

ドラクエ11とはどんなゲームだったのか?
このゲームを一言で説明するなら、

ゲルマン神話を巡る中世ドイツの歴史をベースにしている、

で間違いないと思います。




さて、北欧神話ならロトシリーズ以外でも、
色んなゲームで馴染みのある事と思いますが、
ゲルマン神話と聞いてピンと来る方は居るでしょうか?

何せ本場のドイツの人達にすら、
一部の神学者を除いてほとんど知られていません。



なぜゲルマン神話は失われてしまったのか?

ドラクエ11のストーリーを読み解く上で、
この疑問が重要な鍵になってくるのです。



デルカダール王国=神聖国


本作のキーワードである「悪魔の子」とは、
デルカダール王国が勇者を追い立てた時に使った言葉で、
最盛期の神聖ローマ帝国を徹底してなぞりながら、
我々こそが神聖なる存在である、という強い意図を伝えています。

デルカダールの侵攻を受けたイシの村に居るNPCの台詞が、
悪魔と神聖国の関係を端的に説明していますね。




 ……悪魔の子を育てた 罪深き村を
 裁きの炎によって 浄化した
 デルカダールの王さまは おっしゃいました。



悪魔の子の対敵・デルカダール王国とは、
果たしてどのような国なのか?

3つのポイントをおさらいしてみましょう。


(1)国章が双頭の鷲
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あまりにもどストレートな記号表現。
2016年12月17日公開のオープニング映像にて判明。

双頭の鷲は神聖ローマ帝国の国章であり、
竜殺し(ドラゴンスレイヤー)の意味を持っています。

古代ローマ帝国の国章だった単頭の鷲に、
東西分割後の東ローマ帝国が頭をもう1つ付け、
東から西まで睨みを利かせる双頭の鷲となったのが始まりで、
西ローマ衰退後はカトリック教会のローマ教皇が
それぞれの時代の支配者に皇帝の座を与えて権威の回復に努めますが、
これに乗っかったのが、ローマ氏族の子孫を名乗り
双頭の鷲を家紋にしていたハプスブルク家です。

ハプスブルク家は7人の諸侯からなるドイツ選帝侯の1人で、
敬虔なカトリック信者であった事から、
カトリック教会を全面的にバックアップしました。

神聖ローマ帝国とかいう仰々しい国号を付けたのもここの出身の人で、
カール5世が帝位に就いた16世紀には、
家紋である双頭の鷲を帝国の国章にしています。


(2)ニュルンベルクの街並みを再現
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2015年7月28日、開発初期のプレイ動画にて、
すぐに「あれっ?」と思ったのがデルカダール下層の街並みです。

城壁とは言うまでも無く、ひとたび戦争が起これば
真っ先に攻撃の対象となるものであり、
その城壁にわざわざ家を据え付けるというのは、
住むべき土地を奪われた人々が存在するに他なりません。

はて、城塞都市なら収容できる人数に限界があるはず。
常にどこかしらで戦争が起きていた絶対王政の時代において、
土地が無くなるくらいに人口が超過した都市など、
ヨーロッパの交通の要所だったニュルンベルクぐらいです。

ニュルンベルクは土地面積が最大都市ケルンの4分の1しかないのに、
皇帝の直轄地となった事で短期間のうちに
ケルンの人口(3万人)に近い2万人にまで増えた街でして、
領主が連れてきた農奴身分の人達は
城壁近くに家を構えるしかありませんでした。

なぜこのプレイ動画に映っている王国は
中世ドイツを強くイメージさせる街並みなのか?


この疑問は前述の双頭の鷲の登場によって解消します。


(3)修道会が騎士の叙任を受けている
デルカダール兵

2017年7月28日公開のプロモーション映像にて、
デルカダール兵の2種類の兵装に注目。
プレートアーマーを着た重装兵とチェインメイルを着た軽装兵がおり、
そのうち重装兵のみに顔に十字マークが入っています。

プレートアーマーはニュルンベルクとミラノで生産されていましたが、
ミラノ産の鎧は量産型であったのに対し、
ニュルンベルク産は完全一点ものであったがゆえに、
貴族階級のエリートしか身に付ける事が出来ませんでした。
ここでもやはりニュルンベルクに絞られます。

そして重要なのが、重装兵の方は十字マークが示す通り、
修道会(教会)に所属している騎士である点です。
金十字の端っこに花の形が特徴のクロスフローリーを採用している事から、
ゲルマン式の貴族=騎士、平民=従士(騎士見習い)で構成された
ドイツ騎士団をモデルにしていると考えられます。

つまりデルカダール王国では、修道会が騎士の叙任を受け、
国の中枢を担っているという事で間違いありません。

修道騎士団の主な仕事は異教徒の駆逐です。
これがどんな意味を持つのかは、
実際のプレイで分かる事になります。



「悪魔の子」=異教徒


以上のように、デルカダール王国が
これでもかというくらいに神聖ローマ帝国を踏まえているのは、
よーくお分かり頂けたのではないでしょうか。

太陽の国

具体的にはスペイン領を獲得して中南米まで支配を広げ、
「太陽の沈まぬ国」と称えられていた、
カール5世、および息子のフェリペ2世の時代を模しています。

カトリック教会が最も勢いのあった時期でもあり、
ハプスブルク家の庇護のもと、世界中で布教活動を行っていました。
スペイン人司祭のフランシスコ・サビエルが日本に来たのが
カール5世が在位中だった1549年ですから、
その影響力が世界の東端まで及んでいたのが分かると思います。


悪魔の子

と同時に、この頃には異教徒の駆逐も大方完了していました。

十字軍遠征から始まった「聖戦」のスローガンは、
カトリック教会に従わぬ者に対して苛烈を極めました。

キリスト教と異なる神はみな「悪魔」、悪魔に従う者はみな「悪魔の子」とし、
現地の祭祀、信仰に関わる全てを破壊し尽くした後、
代わりに教会を建て、十字架を設置し、宣教師を置いて帰ったのです。

メキシコではアステカ帝国が、ペルーではインカ帝国が滅ぼされ、
フィリピンではイスラム化が阻止されました。



神の岩

なぜドイツからゲルマン神話が失われるに至ったのか、
これにはカトリック教会による異教狩りが大きく関わっています。

デルカダール王国が神聖ローマ帝国を、
すなわち勝者の歴史を徹底してなぞっているのとは対照的に、
イシの村は神聖ローマ帝国に滅ぼされた原始宗教の村を模しており、
敗者の失われた歴史をなぞっている、

というのが私の見立てです。

原始宗教とは、岩山や樹木に神が宿るとするアニミズム(自然崇拝)を指し、
かつてのゲルマン・ケルト人に信仰されていました。

その為にわざわざ大地の精霊ルビスを岩に籠らせ、
ケルト文化を彷彿とさせる信仰体系を、
イシの村に残しているのだと推察されます。


神聖ローマ帝国

ケルト文化と言えばブリタニアを思い浮かべる人が多いでしょうが、
その発祥はニュルンベルクにほど近い山岳部にあり、
異教狩りが始まる以前はイシの村のような集落が
バイエルンからボヘミアにかけて点在していたとされています。

ケルト文化はゲルマン人にも強い影響を与えており、
本来ならこの辺りにゲルマン神話の史料が残っているはずなのですが、
キリスト教化が比較的早かった事に加え、
それらは口伝継承であったがゆえに、
ほとんど全てが失われてしまったという訳です。

大陸の移動を続けていたゲルマン人が、
スカンジナビア半島に移り住んだ後に口伝による神話を文書化し、
北欧神話として再編されていなければ、
そしてその写本がたまたまアイスランドで見つからなければ、
ゲルマン神話が後世に伝わる事は無かったでしょう。


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ドラクエ11のストーリーとは、勝者によって
「悪魔の子」と呼ばれる事になった、
敗者の歴史を修正する物語なのです。



次回は、イシの村に伝わる石文化を紐解きながら、
敗者の歴史が修正されていく様子を詳細に見ていきます。

(後編に続く)